《第21話》
前回、なぜ私がいきなり成績が上がったのか、その背景をお話したが、
そこだけを聞くと、まるで私が何の苦労もせずに、ラッキーだけで成績が上がってしまったように思った人もいたかも知れない。
しかし、現実的にはもちろん、相当な努力もした。
私も当然、外交セールス部門の先輩方に見習って、通勤・帰宅ラッシュの駅前で、毎日のようにチラシを配った。
チラシのハンディングと一言で言っても、コツがある。
地域によっても反響の質が違ったり、差し出すタイミングや、手の高さも関係がある。
駅の形状によって人の流れを読み、配りやすい場所を探った。
都内の各所で、人の流れ、配りやすい時間帯などのデータを取って分析した。
そして、その情報を部内のみんなで共有した。
ポスティングも、集合ビルの多い地域をリストアップし、効率よく回れるルートを検証し、片っ端から回った。
恐らく、東京23区内の大半のエリア、少なくとも山手線内は、行ったことがない場所は無いのではないだろうか。
ポスティングをするときには、大きなアタッシュケースに何百枚ものチラシを入れて、持って歩かなければならない。
ケースの重さも入れて、10kgは優に超える重さだ。
それを持って、都内中を歩いた。
成功を夢見ていた私は、このケースの中身は今はチラシだが、この苦労が結果として中身を札束に変えるんだ、なんて自分に言い聞かせながら出かけた。
こういった、ハンディングやポスティング用のチラシは、担当者の名前が分かるように、担当者の印を押す。
経験のある方は分かると思うが、数百枚のチラシにスタンプ印を押すのは、結構な時間がかかる。
スタンプ印を押したり、チラシを渡しやすいように、また、ポストに入りやすいように折り込んだりする作業は、お客様からの電話が鳴りにくい深夜に仕込みを行った。
ちなみに、同じチラシを同じ時間、同じ場所で配っても、明らかに反響の率や、そこからの成約率が異なることがある。
実を言うと、当時の私のチラシの反応は、驚異的なものだった。
マーケティングの世界で、この手のチラシの反応率と一般的に言われている数値からみても、私のチラシの反応率は、その数倍から、数十倍の反応があった。
外交セールス部の他のメンバーからも、非常に驚かれた。
私はこの反応の理由が分かっていた。
実は、その理由は証明できる証拠などは何もないのだが、間違いなくそれしか理由が見当たらないのだ。
その驚異的な反応率の要因は、私がチラシにスタンプ印を押すとき、折り込み作業のとき、チラシを手渡すとき、ポストに入れるときにある。
常に1枚1枚、全部に対して「このチラシのご縁で、これを受け取った人が幸せになりますように!」と、心の底から願い、祈りを込めてやっていたのだ。
私の持論はこうだ。
チラシを折り込んだり、ポストに入れたりする時、「この縁で幸せのきっかけを掴んで欲しい」と願う、その「思い」は単なるテクニック的なものではなく、全く偽りのない、私の本心だった。
そして、そういう「思い」は一種の振動や波動となって、「紙」という物理的な存在に、転写されていたのではないか。
その振動が、チラシを受け取った人の中でも、振動をキャッチする人と共鳴して引き寄せたのではないか。
ちなみに、こういった目に見えない作用に対しては、私は不思議なぐらいに確信がある。
私たちが認識でき、脳で理解できる物理の原理を超えた、目には見えない力が確実に存在していると捉えている。
この、見えない「思い」のエネルギーに関しては、どうしてそう思う様になったのか、思い返してみると、ずっと幼い頃から感じていた自分がいた。
例えば、玩具や自転車を磨いたりするときなど、物に対して「ありがとう」と言いながら、話しかけていた。
もしかしたら、どこかで「そうしなさい」と教わったのかも知れないのだが、私にはその記憶がなく、幼い頃から、「自分の心が物にも伝わってしまうものだ」と思い込んでいた感覚がある。
自分がマイナスの感情を持って物質に対峙すると、その思いが伝播して、自分の目には見えないが、マイナスの色がその物質についてしまうような気がしていた。
大きくなって、言葉や思いにはエネルギーがある、という話を聞いたときには、「やっぱりそうなんだ」と思った。
この現象は、一見すると不思議なようにも思え、全く信じない人もいるかも知れない。
しかし、実は冷静に量子物理学の分野で言われている事や、その法則と照らし合わせてみると、むしろ当然のことが起きている、と捉えた方が自然だと言える。