《第5話》
学生プロレスの世界でチャンピオンになり、自分の身体的コンプレックスから脱却した私。
この栄光は、単に周囲の注目を集めただけでなく、それまでの自分の人生を一変させてしまった。
身長のせいで女性には絶対にもてないと思っていた私に、女子大生グループのファンクラブが出来たりもした。
そしてとうとう、一生無理と諦めていた彼女も出来た。
遅咲きの青春をまさに謳歌し、暗く悩み苦しんでいた過去の自分が嘘のような毎日だった。
しかしその時、まさか自分を「背が低い」というコンプレックスから脱却させてくれた学生プロレスが、更なる自己探求へ自分を誘う、苦境の入口になるとは思ってもみなかった。
ある日、事件が起きた。
当時、学生プロレス界の帝王と称され、現在も本物のプロレスラーとして活躍している、知る人ぞ知る有名な先輩レスラーがいた。
その先輩との対戦試合で、私は首に大怪我をし、数ヶ月の休場を余儀なくされたのだ。
その頃、ちょうど大学は学園祭の時期で盛り上がり、特に学生プロレスの、私がもともと出場するはずだったメイン試合は大注目を浴びていた。
同期の仲間たちが観客から大歓声を浴びる中、私は首にコルセットを巻きながら、落ち込む日々を送った。
本当はあの場に自分がいて、誰よりも歓声を浴びていたはずなのに、試合に出られない自分が情けなかった。
すでに、「学プロ・チャンピオン」の称号は、ダメだった過去の自分から、生まれ変わったはずの自分の生き甲斐になっていた。
精神的ダメージは相当なものだった。
そして、更に失意のどん底に付き落とされる出来事が起きた。
怪我をして落ち込む自分を励ましてくれていた彼女にまで、何と、フラれてしまったのだ。
「失恋なんて誰でも経験する」
「たいしたことじゃない」
もしかすると、これを読んでいるあなたは、そう思ったかもしれない。
しかし、コンプレックスの塊だった自分にとっては、「彼女が出来る」ということは、その劣等感から抜け出した「最終ゴール」のようなものだった。
プロレスから離れ、彼女も失った自分は、完全に心の支えを失ってしまっていた。
自分を見失ってしまう程の極度の落ち込みの中、
一体、自分は何のために生まれて来たのか、
そして、どこへ向かおうとしているのか、
見つからない答えを必死に求めた。
長い苦しみと葛藤の時間が過ぎた。
その葛藤から何とか抜け出す道を見いだしたのは、学生プロレスへの「復帰戦」だった。
しかも、そこに用意された舞台は、学生プロレスの選手にとっては夢のまた夢、「聖地」と崇められた後楽園ホールだった。
そこでのメインイベントは、ライトヘビー級のタイトルマッチ・・・
つまり、私のチャンピオン防衛戦だ。
そして、挑戦者は私が初めてチャンピオンベルトを奪った時の対戦相手、つまり前代チャンピオンのベルト奪還戦だったのだ。