信念の男(後半)

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自分探しの旅・田久保剛

【『自分探しの旅』を初めから読む】

《第29話》

(前半より続き)

私はこの頃、恐ろしいまでに強固な自己を確立していた。

今、思い返してみても、当時の自分は神憑っていた。

というか、一歩間違えば、気が狂っていたのではないか?と思うぐらいだった。

自分がトップの業績を収めることに、何の疑いも湧き上がらないぐらいに強烈な自己暗示をかけ、鮮明なイメージを持っていた

この頃、私は誰からともなく『信念の男』と呼ばれるようになっていた。

強烈な信念

自分の扱っている成功哲学教材をとことん実践し、特に「強く思った事は必ず実現する」という事実を、幾度となく自らの営業実績でまざまざと体験した

単月の業績で驚異的な数字を叩き出し、トップになって話題に上がる営業マンは他にも多くいたが、浮き沈みの激しい営業の世界では、すぐ翌月には惨憺たる結果となり、年間では下位という者も多かった。

しかし、私の業績は安定していた。

圧倒的に条件の悪いB商品課において、A商品課のライバル達と常に肩を並べていた。

だが、私が『信念の男』と呼ばれた理由は、業績だけではなかった

あと2~3日で月の業績の締め日だというのに、その時点の自分の成績はビリから数番目、という月も、実は何度もあった。

ところが、そんな状況下にあっても、なぜか「絶対にトップは俺だ」という強烈な信念は、微動だにしなかった

そして、そういう月に限って、最終日間際に大型の契約が決まって、一気に1位になる。

寝ていてもトップ

こんな事もあった。

月も20日を過ぎた頃、私の成績は少額の契約一つだけ。当然、下から数えた方が早いような順位だった。

その状況下で、高熱を出してダウンしてしまったのだ。

当然、営業活動などは一切出来ない。

私もこの時ばかりは、今月はダメかな?と少し思ったが、なぜか安心して、家で寝ている自分がいた。

そして、寝ている私に部下から電話が入る。

「課長!以前プレゼンした方からお申込みが来ました!」

「そうか、じゃあ書類の手続きをたのむ」

そんな風に、熱を出す以前に保留になっていた大型案件が、私が寝ている間にいくつも成約し、手続きを手伝ってもらった部下に業績を分けつつも、月末に復帰したときの私の成績はダントツ1位だった。

流石に周囲は呆気にとられていた。

こんな離れ業ばかりを年の半分近くやっていたので、周囲からも、私の「信念」の営業スタイルは、一目も二目もおかれていたように思う。

そんな絶対的安定感のあった私の営業スタイルを、山川本部長も別格として扱ってくれた。

ときどき自分でも恐ろしくなった。

自分が心から納得できる自分であれ

しかしまた、「信念」を貫き通し、自分の営業スタイルを貫き通すことは、自分への戒めでもあった

私はこの頃から特に、たまに世間にいるような、上辺だけで「愛」や「感謝」を語り、「お客様の為に」や、本に書いてある最もらしい言葉をペラペラ捲し立てる、中身の伴わない営業マンに異様な不快感を感じた。

今井次長が以前、教えてくれた中国古典に、

「天網恢恢疎にして漏らさず」

という言葉がある。

~天の網は荒らそうで節穴だらけに見えがちだが、一切の不正を見逃さない~

という意味である。

自分の事ばかり考えて、表面のテクニックだけでお客様に接していては、いつか必ず心を見抜かれる。

お前は、表面ツラで知ったような顔をするんじゃないぞ。
本当に心からそう思ってそれを表現しろ。

そしてそれは言葉で語るのではなく、結果で語れ!

人に評価を求めるんじゃない。
自分が心から納得できる自分であれ。

まさにこれこそが、自分の在り方だった。

だから、B商品課の中では、一つ一つの売上に一喜一憂してお祭り騒ぎをすることは恥ずかしいことだ、という今井次長マインドを、私も部下に徹底的に植え付けた。

また、他の課に入ったばかりの新人が、いきなり高い成績を上げて脚光を浴び、自分の成功体験を語り出す姿に影響を受けそうになっている部下に、

「矜高倨傲は、客気にあらざるはなし客気を降伏し得て下して、しかる後に正気は伸ぶ情欲意識は、ことごとく妄心に属す妄心を消殺し得尽くして、しかる後に真心現る」

(誇り、高ぶり、他を見下げ、威張ったりするのは客気、カラ元気による。これを押さえつけてしまうことができて、はじめて真の勇気が出る。情欲、利害打算の考えは、すべて妄心のなせるわざ。これをすっかり消滅させてしまうことができて、はじめて真心が現れてくる)

という、私の好きな「言志四録」の一節を読み上げ、喝破したりもした。

運命を翻弄する強い「信念」

この頃から、外交セールス事業部では営業マンのモチベーションを高めるために、毎月表彰式が行われるようになった。

月間成績優秀者はその栄誉を讃えられ、全部員の前で、トップセールススピーチを行うことになっていた。

私も、もちろんトップの成績になった月には、自分の営業の心構えを語り、成績が伸び悩む営業マンは必至にメモを取っていた。

ある月に、スピーチの最後を、こんな言葉で締め括った。

「・・・以上ですが、今日お話できなかった○○については、来月のこの時間にお話しようと思います…」

来月、この時間に話すということは、来月もまた、自分がトップになるという宣言に他ならない。

ここだけ聞くと、何だか自信たっぷりの嫌なヤツみたいだが、もちろん私も半分はウケ狙いであり、

私のライバルだったA商品課の課長の小野さんも、「な~にを~!この生意気な~(笑)」と冗談半分で受け答えした。

しかし、私も小野さんも内心は強烈なライバル心で、そういう互いを刺激しあえる、遠慮のいらない凌ぎ合いが、心地良くもあったのだ。

ちなみに、翌月の表彰式でスピーチに立った私は、「では、先月のお約束通り、今日は○○の……」と話していた。

強く願い思った事が実現する。

心の世界は凄い。

この無限の世界をもっと追究したい!

そしてこの業績を極限まで引き上げたい!

そう思った。

業績をあげ成功を手にする、といった経済的成功へのモチベーションも確かにあったが、私の中に芽生え初めていた関心は、少し矛先が違った。

業績にこだわったのは、報酬を得る喜びより、

自分の思いが実現していく心の世界の凄さを究極まで体験し、その究極の更にその先に、何があるのかを知りたかったのだ。

この道を究めたい!

その結果、自分が扱う成功哲学以外の精神世界や心理学、NLP、瞑想、その他セールステクニックなども貪るように学び、学びながら自らの営業に取り入れ、

すると私の業績は更に伸び、それは不動のものとなっていった。

そうやって、自らの強い「信念」こそが、同時に、自分の運命を翻弄していく結果となることにも、この時はまだ気づかなかった。

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