《第14話》
ここから先しばらくは、私自身の「成功哲学」や「営業」の世界でのストーリーが中心となるのだが、その時代のストーリーに入る前に、前置きさせていただきたいことがある。
以前にも書いたが、「心」「精神」という無限の世界を、「言葉」という有限のツールで表現することは、とても難しい。
表面に書かれた文字だけをそのまま読むと、まるで矛盾しているように見えてしまうことも度々ある。
例えば、私が心の話をする上で、クライアントの方と接する際、時には自己の体験を元に、知識偏重による弊害をお話することもあるが、
その言葉を部分的に理解されてしまうと、「成功哲学」や「能力開発」などに対し、また「営業」の世界などに対しても、まるで悪者のように解釈されてしまうことがあるのだ。
以前の記事にも書いた通り、「道具」はそれ自体が良いでも悪いでもなく、それを使う「心」が大事であって、
心を磨いたら、今度はその素晴らしい心を使って人と接し、社会をスムーズに生きて行くための「道具」を磨く事もまた、重要になってくる。
「成功哲学」は、そもそも成功者が実際に身につけていた思考パターンや行動パターン、そして自然の摂理などを元に体系化されているものも多く、そこに秘められた本質には大変優れたものが、世の中には沢山存在することも事実だ。
この時代の私は、確かにその「成功哲学」をもとに「営業」で成功し、且つ、そこで学んだ体験が、現在の私の基盤のひとつとなっていることは間違いない。
また逆に、その「成功哲学」の知識と、「営業」の世界での強烈な成功体験があったことで、その後、私はそこから来る深いギャップを味わい、更なる展開へと導かれていくことになった。
つまり、ここで私が申し上げたいのは、「成功哲学」や「営業」に対し、世間には、色々な見方、考え方があるが、それは本質的に「良い」でも「悪い」でもどちらでもなく、
単に、その人が、それをどう捉え、どう使うか、という、個々の「心」にしか、価値が存在しないことをまずお伝えしておきたいと思う。
(※この先のストーリーでは、同僚や先輩など多くの人物が登場し、彼らは全て実在の人物ですが、プライバシー保護のため、名前は全て仮名に置き換えています)
* * * * *
・・・能力開発教材の販売営業。
不安も多かったが、商品に対する思い入れもあり、まさに「プラス思考」で自分を奮い立たせ、私は生まれて始めての、電話営業の世界に身を置いた。
その会社には、二つの営業部門があった。
一方は、外交セールス部門で、もう一方は電話営業の部門。当時は、私が所属した電話営業部門が、社内では圧倒的に存在感があり、所属社員の数も多かった。
その分、競争も激しく、結果が出ないと生き残れない。社員の入れ替わりも、相当に激しかった。
最初の数日間は、社内研修や電話トークの練習で、上司や先輩も親切に指導してくれた。
5日目にもなると、本格的に電話営業が始まった。
先輩からは、「練習ばっかりしていても仕方ないから、とにかく実践で数をかけてみることだよ」と教えられた。
毎朝、朝礼では全員が大きな声を出し、営業部長からは成績に対し、厳しい檄が入る。
自分の使う電話機を、心を込めて丁寧に磨き、仕事に入る。
それまで自分がいた世界とは明らかに違って、まるで軍隊のような印象も受けたが、決して嫌いな雰囲気ではなかった。
私と共に入社した同期は13人。最初に課せられた課題は、とにかくその新人の中で、一番乗りで成約を決めることだ。
絶対に自分が決めるぞ、と心に誓った。
それこそ最初は張り切って、夜遅くまで電話に向かった。
上司から、「あんまり始めから飛ばすな」と注意され、もう帰る様に、と言われたほど、真面目に取り組んでいた。
会社から渡される顧客名簿に向かい、朝から晩まで、電話をかけまくった。
電話の向こうのお客様は、当然の事ながら、私の不慣れな営業トークに、なかなか聞く耳など持ってはくれない。
何度も何度も、ガチャ切りされ、その度に心がグサッと傷つき、どんどんメゲて来る。
しかし、プラス思考で「平気、平気」と自分に言い聞かせ、イメージトレーニングをしたりして気合いを入れる。
入社して9日目、ついに初契約が取れたのだ!
そして誓い通りに、同期の中で一番乗りの契約だった。
そうだ、俺はやれば出来るんだ!
ここで絶対に成功してみせる!
その日の帰り、自分の面倒を見てくれていた先輩が祝杯をあげてくれた。
本当に嬉しかった。
翌朝も、朝礼で新人の一番乗りということで指名され、みんなの前で挨拶をした。
自分が誇らしかった。
希望の光が見えた様な気がした。
しかし、この栄光はたった1日で影を潜めてしまう。
翌日は、もう他の同期が、自分より高い成約をあげ、その後を追う様に、次々と同期が成績を伸ばし始めた。
ビギナーズラックで初成約を上げた後、その先の、私の目の前にあったものは、本格的な、苦難と試練の道のりだった・・・