7,000,000,000通りの現実

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自分探しの旅・田久保剛

【『自分探しの旅』を初めから読む】

《第20話》

外交セールス部門の直販の営業スタイルは、前回もお話したとおり、電話営業部門のスタイルとまったく違う。

最も違う点は何かというと、顧客名簿の存在だ。

電話営業部門が電話する名簿は、会社から託される。広告や書籍などから、お問合せが入ったり、資料請求のハガキなどがお客様から送られて来る。

つまり基本的には、お客様は何らかの情報に触れ、先にお客様側からこちらの商品に興味を持っていただいた方々だ。

その方に、正しく商品を理解し購入していただくために、営業マンが商品知識を身につけ、メリットをご案内する。

もちろん、電話口の営業で成約に至るまでには、大変な努力と技術を要する。

お客様に信頼していただき、きちんとご納得をいただかなければ、やはり商品の購入には至らない。

しかし、先ほども説明したとおり、会社から渡された名簿に載っている方々には、「お客様側から興味を持った」という、ある程度の下地がある。

一方、外交セールス部門は、全くゼロの状態から自分でお客様を開拓していかなければならない。

その方法は色々あるが、例えば早朝から駅前に立ち、通勤時間帯の人々にチラシを配る。

また、そのチラシを持って街中を歩き、ポスティングする。

チラシには担当者の名前が書いてあって、興味を持った方から反響があると、そこから様々なアプローチの段階を踏んで、最終的には実際に会って、具体的な商品説明をさせてもらうのだ。

他にも、例えばセミナーを開催し、そこに集まった方々にプレゼンテーションを行い、興味を持ってもらう。

この、全く異なる営業スタイルに、面白い盲点が隠されていた。

電話営業部の営業マンは、外交セールス部に対し、「あいつら、よく、下地の無い独自開拓のお客様に対して、セールスなんて出来るよな」と思っていた。

逆に、外交セールス部の営業マンは、電話営業部に対し、「よく、電話だけでセールス出来るよな」と思っていた。

お互いが、お互いに「あっちは大変」「あのやり方は難しい」と思っていたのだ。

人間は、自分の持つ固定概念を外すことは非常に難しい。

自分では「当たり前」と思っていた常識が、隣の家に行くと非常識だったりすることも良くある話だ。

人間が70億人いれば70億通りの物の見方がある。

つまり、その「物の見方」というものが、その人にとっての「現実」と思っているだけで、自分の「現実」は他の人から見ると、全然違う「現実」である可能性があるのだ。

相手の現実が見えないから、人は互いに「何であの人は理解してくれないんだ」「どうしてあんなことを言うんだ」となってしまうことがある。

しかし、相手の現実を理解しようと努めた時に、それまでは見えなかった世界が開けていくことがあるのだ。

私は、たまたま両方の営業スタイルに触れた。

当時の社内では、両方のスタイルを経験できた唯一の営業マンだった。

だから、どちらのスタイルも疑問を感じなかった。

この壁のない発想と、双方の営業マンが敬遠することを両方出来てしまうスキルが自然と身についていた、という、ここまでの経験が、まさに私の身を助けた。

少し話しはそれるが、私の新しい上司となった今井次長は、山川本部長とほぼ同期で、以前は、共に電話営業部の営業マンとして、トップクラスの成績を競い合っていたそうだ。

その後、山川本部長は電話営業部のトップに。

そして、今井次長は、外交セールス部門の中で、当時、比較的知名度が低く、売上も伸び悩んでいたB商品を扱う新部署の立ち上げを会社から任された。

しかし、電話営業部と異なり、顧客開拓から全てをやる外交セールス部門において、すぐに会社に貢献できるような売上を出すことは非常に難しい。

更には、なかなか軌道に乗らないB商品を扱う新部署は、まるで、会社のお荷物部門のように扱われ、相当悔しい思いをしてきたという。

電話営業部の売上記録更新で打ち上げがあった時、その宴席で、当時、うだつの上がらない外交セールス部門は、非難の矢面となってしまったこともあったらしい。

だから、電話営業部と外交セールス部門は、どことなく交わらない感じがあった。

古参の社員は、今井次長のかつての実力を知っているので、手腕を発揮しにくい部門に回され、空回りしているだけだ、と思われていた。

しかし、今井次長自身は、この厳しい条件の新部署にあっても、ここで何とか一花咲かせたいと夢を語ってくれ、私もそれに共感した。

私は、自分自身のために頑張ったのはもちろんだったが、何とか、今井次長の力になりたい、という気持ちも強かったのだ。

また、外交セールス部門は、基本的に「ユーザー上がり」の営業マンが多い。

そう、電話営業部門時代に、「田久保が売れないのは、ユーザー上がりだからだ」というレッテルを貼られた、あのジンクスの対象者だ。

事実、山川本部長が睨みを利かせていたために、電話営業部では常に絶えなかった、ピリッとした緊張感の空気は、外交セールス部門にはあまり無かった。

それがこの部の良さでもあったが、何となくマンネリした売上のままで停滞していた要因が、ここにもあるようにも見えた。

ユーザー上がりであることそのものが、マンネリ化の直接的要因とは思わないが、風潮として「だから外交セールス部門は売れない」という空気を、受け入れてしまっていたような側面もある。

「ユーザー上がりの俺たちだって、これだけ出来るんだ」

自分の心に以前から何となくあった違和感も手伝って、ここで実績を上げて見返してやろう、という気持ちがあった。

部署が異動になった直後から、私は今井次長から託された名簿に片っ端から電話し、更には、自分の配ったチラシからのお問合せのお客様にも、電話だけでいくつもの成約を上げてしまった。

電話営業部門のときには、それこそが仕事だったので、電話だけで成約に至るまでのセールスをする行動は、私にとっては何の疑いもない行動だった。

しかし、これが驚異的な数字となった。

何故なら、外交セールス部門は、顧客名簿を会社から提供されない分、コミッション率がとても高かったのだ。

だから、電話営業部にいた頃と全く同じ様にやっていても、それなりの数字に達してしまう。

しかも、緊張感から放たれ、自分の力を発揮できる環境に異動させてもらったお陰で、その成績に拍車がかかった。

ビックリしたのは、もともと外交セールス部門にいた、知名度の高い商品を扱う、A商品課の営業マンたちだった。

当時の彼らにとっては、電話は、アポイントを取るためにあるもので、セールスは直接会って行うものだ、という固定概念があった。

「よく電話だけで成約出来ますね!」と驚かれたものだ。

しかし、この時、驚くばかりだったA商品課の彼らも、その後、私の出した数字に触発され、固定概念が崩壊し、外交セールス部門は、まるで生まれ変わってしまう。

このことは、何も、彼らだけに起きたことではない。

ほとんどの人間は、常に何らかの固定概念の中で生きている。

自分の「現実」を疑い、固定概念を外すだけで、自分の目の前に展開する世界は、誰もが簡単に変えられる可能性を持っているのだ。

電話営業部で、知らず知らず鍛えられた根性と、磨かれた技術。

自分の良さを引き出してくれる新しい上司と、働きやすい環境。

そして、私は、誰もが気づかなかった盲点に対し、無意識ではあったが、そこを突いたような結果となった。

あらゆる条件が見事に重なった訳だが、その中のどれ一つが欠けていても、大きな結果にはならなかっただろう。

私がこの時に出してしまった数字が一体どんなものだったのか、次回お話したいと思う。

そして、私が出したこの数字が、その後、外交セールス部門の文化までも、完全に塗り替えてしまうことになる。

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